【ドイツ 演劇】ENDGAME 24 (ユリ・シュタインベルク作『エンドゲーム 24』)――2024年9月7日 マクシム・ゴーリキー劇場 Maxim Gorki Theater

夜道を歩き、マクシム・ゴーリキー劇場へ(スマホなしで1時間徒歩移動、当日券は買えるのか)

作:Juri Steinberg
演出:Marco Dahmghani
出演:AYSİMA ERGÜN, Vidina Popov
初演:2024年6月14日
観劇日:2024年9月7日

 

 スマホがない、というのは現代人にとってかなり特殊な状況である。写真などいろいろなものをアーカイヴしたり、買い物をしたり、場所を探したり、友人と連絡を取ったり、多くの者がこれを生活のハブとして機能させている。もちろん、スマホがない時代を長く生きた者たちからすれば、スマホがあるか、ないかはそれほど大きな問題になりにくい。現代は60代でもかなりの割合がスマホを持っているというデータもあるようだが、きっとエンタメ消費の比重ばかり大きく、本格的にLINEで連絡を取り続けたりはしていないのではないだろうか。もちろん、想像にすぎない。しかし、数値で見えるものと見えないものとがあるのも事実であって、スマホの画面を見ている時間がいかに長いといっても、何を目的にしているのか、ダラダラtiktokとかyoutubeとかばかりを見ているのか、日々の罪悪感から逃れるためにXとかに正義感溢れる投稿をし続けているのか、永遠に友達と下らない会話やスタンプの応酬を繰り返しているだけなのか、もちろんこれも調査の範囲には入るかもしれないが、必ずしも実態に近い表現でデータに反映され、われわれの手元に届いているとは限らない。

 メインスマホを紛失したおかげで、雑魚サブスマホしかないという状況になってスマホ離れできた、とポジティヴに考えている(そう思わないとやってられない)。だからPCで調べはするが、wifiの範囲外に出たら手書きの地図と記憶と勘だけが頼りになる。幸い、ベルリンのなかでもかなり町の中心に位置しているので、いろんなものがそれほど遠くない。googleが提案するのはいつも最短ルートなのだが、ベルリン初心者には厳しいルートである。だから多少遠回りでもわかりやすい道を選ぶ。ポツダム広場に出て、そこから真っすぐブランデンブルグ門に向かい、右折してウンター・デン・リンデンを進む。フンボルト大学を過ぎたところで左に食い込むと、マクシム・ゴーリキー劇場である。

 1952年に創設されたこの劇場は、ベルリンの5つの国立劇場のなかでも最も小さいという。はじめはソ連軍の指導のもと作られたようである。私が入った「スタジオЯ」はかなり小さく、自由席。価格も18ユーロ(2800円くらい)と、客席数も100行ってるのかどうかという、日本の小劇場を彷彿とさせるものである(いちばん個人的な記憶に近いのは同志社大学の寒梅館のクローバーホール)。海外の作家もしばしば上演しているらしいが、このサイズ感ならどんな小規模劇団でも手頃でちょうどいいだろう(どうやって機会得るんかしらんけど)。もうちょっと通ってみようと思う。かなり敷居は低く感じた。

 そして、演出もかなり日本の小劇場を思い出させる作りだった。タイトルは『エンドゲーム24』(作:Juri Sternburg、演出:Marco Damghani)。まだ全然ドイツ語がわからないので、わかったことを順不同で書いていくが、サッカーを題材にした女性2名のコメディで、アンサンブルがおそらく子どもも含めた7人。初演は2024年6月14日と書いてあるので、ある程度何度もやっている演目ということなのだろう。それでも観客は皆セリフの節々で声をあげて笑っていたし、私もパントマイム的な表現の部分は理解できたので楽しむことができた。急に歌ったり、踊ったり、暗転したり、「このシーンはchatGPTが書きました」と字幕で出て、たぶんchatGPTが書いた流れをそのままやっていたり、映像もかなり効果的に導入されていたし、劇中で観客にほんとうに今開けたシャンパンをふるまったりしていた。

 入場時、当日券を買ったもの以外はほとんど事前にダウンロードしたQRコードを示し入場(おそらく事前カード決済)、当日券にもバーコードがあってそれを読み取ってもらったらすぐ入場できた。開場が開演の10分前だったのでかなりハラハラしたが、開演30分前にはほとんどの者が精算を終えているため、このスタイルでもほぼ遅れなく開演していた(遅れ客はいたが)。見かけは古い劇場だったが、ネットはそれなりに活用しているようである。

 また英語字幕も当たり前のように設置されていた。カミテシモテにモニターが吊ってある。少し字が小さいので読めない人も多いかもしれないが、この規模でこれだけ用意されていて、3000円以下なら文句もあるまい。視力1.5でよかった。

 帰りには、「演劇初めてだけど面白かったわあ」的なことを言ってる人がいた。観客の世代も、大人、子供、女性、男性とかなりバラけていた。観客といい関係を築けている作品だと思ったし、いい劇場だなとも思った。学生演劇ではじめたての頃のことを思い出す。いろいろなやり方があったなあ、そういえば、みたいな。

 夜22時近い夜道を歩いた。電車やバスもあるのだが、歩けば片道40分弱、かなり微妙なところであるが、観光もかねて歩いて往復した。かなり疲れてしまったが、ブランデンブルク門も通れたし、一石二鳥と考えることにしたい。

 明日から授業が再開する。少しだけでも毎日進歩していかなければならない。急にドンとできるようにはならない。時間をかけよう。