劇団辞めてドイツ行く(9)Volvicが手放せない――2024年9月9日
はじめての雨である。思えば来てから一週間雨に見舞われなかったのは、何度もスーパーを往復しなければならない徒歩移動中心の新参生活者にとってはありがたいことであった。そもそも雨・曇りのほうがベルリンらしいのかもしれない。暑さはやや和らいだ。
日本語で「ドイツ 〇○」で調べても、それなりに情報が集まるのでなんとかなっている。やはり少量の英語、旅するドイツ語に毛が生えた程度の語学力でも、お金さえあれば生活はなんとかなるものである(油断するとすぐなくなる)。にんにくやレタスは見たらわかった。キャベツ Kohl だけちょっと風変わりな三角錐状のもの(Spitzkohl)があって、調べてみたところによるとこれが最も日本のキャベツの味わいに近いらしい。レタスを消費しきったら食べてみよう。食器用洗剤と衣類用洗剤も、パッケージでわかったりする。ただ、水が日本と全く違うという点はとても重大である。来る前に硬水に身体を慣らしておくべきだった。日本の軟水が恋しい。
※あとでわかったこと
浄水器のブリタなら、いちいちボルビック買わかなくても、日本人が飲める水になるみたいです。なんやかんや結局、買えずじまいでした。。。
学校の建物と寮はつながっている。今のクラスは3階で、自分の部屋は4階。ほとんど学校から出ないで過ごすことができる。せっかくベルリンまで来ているのに外を出歩かないというのはもったいないのかもしれないが、もう少しドイツ語が堪能になってからでないと、楽しめるものも楽しめないということもあるし、今日も夜ボルビック(※)を買いに行く以外は、大人しく部屋で勉強していようと思う。

寮に何人か日本語話者がいたのだが、そのうちの一人に「リスクヘッジしないほうがいいですよ」と言われた。これには感銘を受けた。自分はリスクヘッジにリスクヘッジを重ねたうえで、過ちを犯してしまう性質である。何にかんしても、リスクヘッジしなかったときにはたいがい碌なことがなかったし、つねに臆病なので思いつく限りの数の防衛線を張り、じわじわと後退し、そのせいで、いつも鈍重な動きになってしまう。
前の職場の、中国系の後輩にお別れのメッセージを言いそびれていたので、LINEで「無事、ベルリンに着いてます、これからも日本でがんばってください」という旨の連絡をした。するとその日のうちに返事が来て、とても長くて定型でない、本人の心のこもった文章が返ってきた。涙腺が揺らぎつつも、敬服したのはその長いメッセージのなかに、ほとんど文法上、表現上の誤りが存在しないことだった。彼女は英語もできるので、謙遜してそう本人は言わないが、トリリンガルである。自分はといえば、ホテルでそこそこ英語を使ってはいたけれども、あれは、求められる単語がある程度限定されていること、また圧倒的に情報的優位にあったという2点があってのものだった。困っているのはいつも相手(客)のほうである。そのことを理解していれば、高校レベルの英語しか知らなくても、ホテルのフロント業務くらいならなんとかなるものである。
ホテルには、中国だけでなく、ネパール、韓国、インドネシア、ベトナム、ミャンマーと様々な国から日本に何らかの希望を抱いて働きに来ているものがたくさんいた。何一つ、彼らに敵う部分がないということを、授業を受けているだけで感じる日々である。
しかし、先週よりはマシになってきた。ただそれは先週の自分と比較してのものでしかないので、本来目指すべきレベルからはほど遠い。というか、自分が受かったドイツ語検定3級はA2レベル相当で、それも「書く聞く話す読む」のうち、書く読むに限定されたA2であるはずなのに、クラス分け用のウェブテストでB1と判定されしまったのだが、さすがにザルすぎんかと思っていた。
ところが、これも徐々に理由がわかってきた。自分のPCで受けるウェブテストで問える範囲は、どうしても書く読むに限定される。またそこで問われるのは主に文法事項である。そもそも文法事項に嫌悪感を持たないというか、むしろそこがいちばん楽しめる自分にとってウェブテストは、究極的に得意な範囲だったということである。授業を受けていても、文法事項は(使えるかは別として)、ほとんど知っている内容である。「ああ、今接続法1式の話をしているな」みたいな。周りの学生はかなり若いからここで初めて聞いているのかもしれないが、プレゼンの三段構造みたいな話も、「何周目だろうかこの話、というかドイツも基本は一緒なのね」といったところである。どうにかしてこのアドバンテージを有効に活用しつつ、授業に追いついていきたい。


