劇団辞めてドイツ行く(39)「名前」 ――2024年11月20日

 今日、ルームメイトのうちの一人を訪ねて同じ寮の別の部屋に寝泊まりしている女性がノックしてきた。もう一人のルームメイトが出た。私は音楽を聴きながら戯曲を読んでいて、うっすら気が付いているくらい。女性は英語とロシア語が話せる。ルームメイトのドイツ語はまだ「グーテンターク」で、スペイン語だけ話せる。

Excuse me, where is Alex?
—What..? I’m Alex…
No, ich…äh,,,I want to know where Alex is.
—…Ich bin Alex !
Nein, I’m searching Alex
—Ja, I’m Alex. Who are you?

 訪ねてきた女性とはすでに顔見知りだったので、ここで割って入って「知らんけど、アレクサンドルはたぶんキッチンにおるんやないかな。どうしたん」と聞くと「ちょっと渡したいものがあるねん」と英語で言って、女性はキッチンのほうへ向かった。渡せたらしい。

 まあ、単純な話で、ベラルーシからのルームメイトのファーストネームはアレクサンドル。エクアドルからきた彼のミドルネームもアレクサンドルだったのである。はじめに名前を聞いたときは、テリーと名乗っていたので忘れてたが、この部屋には二人のアレクサンドルと一人のマスグがいる。ここで、自分が出てしまったせいで、ドラマが起こらなかった。もう数分気が付いていないふりをして泳がせて、記録をとるべきだったな。

 さすがにルームメイトは覚えているが、毎日顔を合わせているクラスメイトでも、イツメンにならないとなかなか名前を覚えられない。アレクサンドルくらいポピュラーな名前だったらいいのだが、自分みたいな自国でも超マイナーネームだと申し訳ない気持ちになる。子音・母音・子音・母音・子音・母音と続くMasuguは、やや発音が難しいらしいので、実は一回だけ、ベルリンにきてから偽名を使った。台湾や香港から来ている人たちは、英語名を持っていたりして、ホテルの仕事で、パスポートを確認していた時期にはわからなかった利便性を理解した。ただ、ナタリー先生はそれぞれの国の名前を尊重して、ちゃんと覚えていてすごいなあと思った。

 今回、いろいろ作品を観たが、演出家名、役者名をあまり覚えられていない。カタカナ表記をグーグルでやってみてもそれが確かなのかもはっきりしない。そもそも日本語では表記不可能なものもある。誰かが日本語表記をどこかでやってくれていればと思って検索をかけてみるが、なかなかヒットしない。自分のなかでは、スロヴェニアの哲学者スラヴォイ・ジジェク(Slavoj Žižek)がギリギリである。一人一人、丁寧に覚えていくしかない。