劇団辞めてドイツ行く(36)10ユーロしかない――2024年11月14日
「10ユーロしかない」
10ユーロ(約1600円)というと、ケバブと、飲み物が買えるか買えないかくらいの金額である。リドルのパンにだけすれば数日は乗り切れるが、だいぶ厳しい金額であることには変わりない。
なお、自分ではなくルームメイトの話である。オンライン銀行の本人認証には、スマートフォンを使ったテレビ電話でパスポートをオペレーターに見せることが必要なのだが、彼のスマホのカメラは壊れていてうまく写せない状態らしい。これをしないとクレジットカードが使えないので、現金で生活するしかない。しかし、現金はもともと25ユーロしか持ってきておらず、日曜から今日まで節約したが、残り10ユーロという状態になったとのこと。さすがに手持ちの現金の少なさや事前に調べればわかりそうなことで、不用意だなとも思ったが、とにかく他に助けてくれる人もいないとのことだったので、「僕のスマホを認証のため使っていいよ」と提案した。隣の部屋に、ロシア語も英語も堪能な女性がいて、オンライン通話の際は彼女を頼る。うまくいかなければ土日にベラルーシにいったん戻るという。
あまりご飯を食べられていないようだったので、とりあえず明日まで今夜のご飯代くらいは貸そうかと言ったが、それには及ばないよ、悪いよそこまで。それになんとかなるさ、と言われた。その隣人に携帯を貸してもらうのが最短では?とも思って提案してみたが、彼女の携帯電話のカメラも壊れているらしい。オンライン銀行、スマホによるクレジット決済などネットに頼った生活を送るなら、誰にとってもスマホは必須だと思うし、それなりに管理・理解しておかないとこういう事態になる。
ただ、スマホは高くなった。誰にとっても、すぐに購入が決断できるような値段ではない。2台目で使っているiPhoneSEの第一世代は、4万円だったが、昨今は「廉価版」でも6万円だったりする。中古なら選択肢は増えるが、中古品を正しく買うにはある程度の知識がいる。情報に弱い人に、ネット社会は厳しすぎる。いいものに触れられないというならまだしも、無駄な契約をさせたり2年縛りにしたり、あの手この手で「結果的に会社が得をする」ような錬金術をかましてくる。
また、この「ある程度の知識」というのがまた厄介なところである。調べれば調べるほど、情報は出てきまくる。例えば自分は、ドイツですらあまり一般的とはいえないオンライン購入の格安SIMを見つけて契約する方法を必死に探っていたが(Reweとかのよりも安い)、結局、HPを読み込んで2年縛りということがわかったので諦めた。こんな感じで、丸一日かけたわりに成果なし、ということも多い。外国、となると情報は余計に少なくなる。こういうのも勉強と思うしかないが、生活の節々における面倒はなるべくないほうがいい。なるべく仔細に記録を残して後続のためになるよう心掛ける、という個人の外における意義を見出すことでどうにかバランスをとる。
そして、私はそんなルームメイトを後目に、『ハムレット』を観に、シャウビューネ劇場へ向かうのであった・・・