劇団辞めてドイツ行く(26)obligado =ありがとう??――2024年10月8日

obligado =ありがとう??

 朝7時半、夜行バス(Flix Bus)からベルリン中央自動車駅に降り立って、寝れたか寝れてないのかよくわからない状態で、学校に戻り、朝9時からまた授業を受けた。課題はなんとか済ませておいたが、今日も容赦なくエッセイの課題が出た。

 ここまで3人の先生が担当になったが、うち2人は代打みたいな感じだった。自分はいろんな学校で教員に恵まれてきたという実感がある。語学学校というのは、先生によって当たり外れが大きいところがあるようで、病欠で別の先生になったときにいかに彼女が仕事に情熱をもって取り組んでいるのかがわかった。彼女がたんに教科書に沿って進めていくわけではなく、誰かが躓いたらそれがいかに基本的な文法事項であっても、必ず立ち止まって丁寧に説明してくれるし、プレゼンテーションやディスカッションのときも、世界共通で通じるコツを伝授しながら一人一人に、あなたは「lauter」(大きな声で)あなたは「langsamer」(ゆっくり)あなた(三日目くらいの神田)は「ganzen Satz」(単語ではなく完全な文で)、ねとアドバイスをくれる。課題も、テキストエッセイなどは持ち帰って作業しているようで、すぐ返却してもらえる。バイト探しとかよりも、この先生の授業をいちばんがんばりたいと思った。

 言語そのものが好きだと仰っていて、英語もフランス語もかなり堪能である。スイスのフランス語圏出身の生徒に対して少し難しくなった内容を、フランス語で説明していた。いろんな言語が好きらしく、たまに日本語で知っている単語とかを楽しそうに授業に取り入れたりもする。何度か京都に旅行をしたことがあるらしい。

 そんななかで、どういう文脈だったか忘れたが、「ポルトガル語の obligado が、日本の『ありがとう』の語源になったと、私は習ったよ」という話が出た。これは俗説である。自分もネットで情報をさらった程度なので、学術的正確性は保証できないけれども、おそらく偶然が生んだ俗説っぽい俗説である。「有難し」は16世紀のポルトガル人の来日より前からあったとのこと。ところが、実際にポルトガル語が語源になった日本語もそれなりに数があって、始末が悪い。それに「そうだったら面白いな」と知的好奇心をかきたてるようなところがこの説にはある。「カステーラ」や「タバコ」なんかよりも「ありがとう」のほうが世界共通で「へえ~」となりやすい。

 もしこれが、日本語学校の、日本語を学ぼうとする生徒の授業であったら、Frau, ich möchte darauf hinweisen. Eigentlich ist das… と言いたいところなのだが、そういう場でもなければ、「俗説 Folklore」という単語がわからず、Das ist nicht richtig か Das ist ein Fehler とかそういう強めの文しかまだ作れないし、それを言っても誰かが得をしたり損をしたりするようなことでもない。簡単に調べたところ、仏教系の「面白くない」記事にしか出会えなかったし、「諸説ある」とか、本格的に使われだしたのは徳川時代かららしいとか、ごちゃごちゃしてくる。それでまあ、別にいっか!となったのであった。Ich weiß das auch nicht! とひとまず言っておく。

 語学学校を追い出されるのは、11月23日。それ以降どうするか、まだ何も決めてない。そんななか日本で面白そうな12月からの募集を見つけてしまった。ワーキングホリデービザは、自由度が高く、人生最後にとれる貴重なビザであるが、ドイツで働くことを選択「しなければならない」わけではない。自分にとっていいと思えるほうの判断をするべきである。それに、すでに海外で活躍している人々の話を聞いたりして、語学力よりも重要なものがあると感じることもある。この三か月でドイツ語を、今のよい先生のところで真剣にやりぬくことに集中し、再び別の手段でドイツに戻るということも十分検討できる。また、働き出してしまうと、語学の伸びが止まる可能性もある。一定のところから出られなくなって九か月経過というのは望ましいことではない。。。いずれにせよ、どちらかにもう一歩踏み出す必要がある。もう数日だけ、考えたい。