劇団辞めてドイツ行く(53)ギリ、カネ、アル!!!――2025年4月22日
ちゃんと計算した(たぶん合ってる)
フランスのアヴィニョン演劇祭に行きたいと夢を語っていたのだが、よく考えてみると帰国の8月5日までの間、無収入の状態で経済的に生きていけるのかどうかをきちんと計算してはいなかった。計算しよう。
2時間程度、エクセルを開き、日本円の口座残高(円)、引き落とされる予定のクレジット(円)、Revolut のデビットカードに入れた金額(€および¥)、N26の残高(€)、月々のドイチュラントチケット(€)、かき集めた手持ちの現金合計(€)――諸々すべてを計算した結果、4月分の給与収入を抜きにしても(週3とかなのでごくわずか)、ギリ生きていけることがわかった。観劇は控えなければならない。ハンブルク、アヴィニョン以外は、ゴーリキーとかの9ユーロの席に限定しよう。100本観劇は厳しそうだが、仕方がない。数えてみたら、観劇数はこの前のゴーリキーでちょうど50本だった。折り返し地点になるか。もし残りの観劇がすべて9ユーロだったら、単純計算で450ユーロである。トレッフェン分は支払い済で計算外なので、もう少し安くなるか。100本もギリいけるのでは? そう考えてしまうが、もう計算するのは辞める。
生々しいお金の話をしてやろう
8月までのAirbnb の乗り継ぎ分がこの先引き落とされれば、日本の銀行口座の残高は約6万円になる。めちゃくちゃ不安になるが、日本円での収入がないので当然である。いちおう関西の交通系ICカードICOCAに5000円くらい入っているので関西国際空港に到着した時点では、無一文にはならない。大阪にも、広島のばあちゃん家にもいける。なか卯食べよう。たぶん泣くぞ。パチンコ店員やホテルフロント夜勤の仕事を格安で支えてくれた松屋やなか卯のほうが自分にとってはおふくろの味である。牛丼チェーンを小分けにすれば、三日は食べられる。そのあいだに日本でなんとか次のアテを見つける。ユーロは、あらゆる残高をかき集め、そしてこれから引き落とされることになるドイチュラントチケット3ヵ月分を引くと、約1370ユーロ。日本円にして約21万円である。これに5月振込の4月分の給与(まだ具体的にいくらになるかわからないが、週3だったので税金を引くと800ユーロもないはず)が足される。4月分の給与は、旅費や観劇費用に充てる。2024年9月~11月まで、そして2月から4月までの家計簿から考えて、家賃以外の生活費を6万円/月、5月~7月の3か月+5日間これまでの生活のままで十分生きていける。ケバブは食べられる。というかケバブを食べるのが安くて健康である。切り詰めれば働かなくても生きていける。100ユーロと安いとはいえ(日本での受験料の半額程度で済む)、さすがにギリギリなのでドイツでゲーテ試験を受けるのは辞めておく(テキストくらいは買おう)。というか、当たり前だが働くとその分自由な時間が減ってしまうので、一切余計なことをせずに、ドイツ語の勉強と観劇のみに集中すれば(むしろそれは望ましい)、プラマイゼロで出国できる。奇跡である。予定の残高6万円と4月分の給与のうちいくらかを使って、アヴィニョンとハンブルクに乗り込もう。数作と数日の宿泊費には十分なはずで、余らせられる。余裕は、ギリある。頼むから、戦争も為替乱高下も勘弁してくれ。トランプにごちゃごちゃ言ってるやつ、アメリカなんてはじめから信用できない国だったろ。ネクタイの色で大統領決まる国だぞ。あれが平常運転だ。ユーロも円も落ち着いていてくれ。この先の三か月で、私を妨害するために、世界恐慌が来たりしたら、いろいろ計画が崩れる。そうなったらそれは陰謀だ。
覚悟を決めて働かない
あるいは、週2とかで、少しでも働ければたしかにありがたいのだが、8月帰国なので正直嘘をついたりしなければならない。どの職場も長期雇用しか欲しがらないので素直に現状を話せばわりと敬遠されてしまう。海外という逃げられない環境をいいことに、セクハラとかやりたい放題やっている人間もよく聞くし、正直もうめんどくせえ。今回の本分は、ドイツ演劇のリサーチであって、ちまちまバイトすることではない。最悪10万くらいどこかから借金する覚悟でいれば、それなりに残りの時間を充実して過ごすことができる。というかこのちょっとした経済的余裕が欲しくて週3の数時間を無為に過ごすことについて、少し立ちどまって考えねばならない。労働と限られた時間を天秤にかける。
バイトしすぎて勉強しないで過ごす大学生は、今も昔も少なくない。そこには様々な事情があるが、惰性でそうなっている者もいる。手に取るようにわかる成果が得られるからである。それが人生にとってプラスに働くかどうかはもちろん本人次第なのだが、やはり私はゼミでの発表のための文献を探して、経済学部、商学部、法学部、文学部と大学中の書庫を歩いて回り、ときにはダーウィンの『進化論』の原文を読みに京都大学まで出向くなどしていた学生時代のあの時間に一番価値があったと思う。就活を辞めてパチンコ屋で働き出すまで、演劇、ゼミ、軽音サークルをぜんぶ全力でやっていて、申し訳程度にしかバイトしなかったので、あの頃は、それ以外の楽しみといえば、コーヒーとラーメンくらいだったが、今回はそれがコーヒーとケバブになるだけの話であり、30歳を超えて同じような時間を違う国で得られるという幸運をかみしめよう。あと約3か月と少し。サバイヴすっぞ。