劇団辞めてドイツ行く(48)インキーした23時30分――2025年2月28日

 バイトから帰ってきて、一息つき、水を飲もうとするがブリタは空だった。補充して、浄水されるまでのあいだにタバコを吸いに外に出る。

 油断大敵である。疲れていたのもあるかもしれない。出て一服して気がついた。鍵、部屋においてきた。学生寮は、ホテルみたいな感じで夜は施錠されており鍵がなければ入れない。常駐のスタッフがいるわけでもない。しかも最悪なことに、2月のベルリンで薄手のパーカーに、サンダル、スマホもクレカ類も部屋に置いてきた。絶望しかない。時刻は23時20分くらい。10分は耐えられたが、だんだんブルブル震えだす。とりあえず2本目を吸う。学生が誰か外に出てくるか、帰宅するかを待つしかない。ベルリン住みで家を知っている友人はいるのだが、いちばん近い彼は、ここから歩いて約1時間。しかもやや危険なエリアを通過する必要がある。そもそも夜中に連絡もなく現れるのはさすがに迷惑すぎるので避けたいし、彼がいま家にいるかも定かではない。そんな事も言ってられないくらい寒い。昨日、トルコ人女子グループが夜2時くらいにタバコを吸いに外に出てていたのとすれ違ったので、彼女らが一つの希望である。うち二つは去年クラスが一緒だったので名前を覚えている。金曜日なので、この時間に帰宅することもまぁあるだろう。最悪、明日の朝に誰かは現れるだろうが、そうなった場合、薄手のパーカーと、一箱のタバコでベルリンの夜を乗り切らねばならない。友人に助けを求めるにも、スマホがないので連絡手段がない。道行く人の誰かにスマホを借りて、インスタなどにアクセスさせてもらい連絡するということも検討した。しかし大胆に行動するにはまだ早い。もう少し待ってみよう。

 しかも小雨。気温は3度だった。それでもベルリンの寒さは、京都よりマシである。とはいえさすがにパーカーだけでは寒いので、フードを申し訳程度にかぶる。そんなに人通りが多い道ではないので、若者が見えてくると目を凝らして学生かどうか確認する。やや不審者感があったかもしれない。明日がというのも始末が悪い。平日なら朝8時頃に学校のスタッフが出勤してきて鍵を開けるのだが、土日はそれがない。ベルリンに死すかと思った。

 いろいろなことに頭を巡らせていると、23時50分くらいに同じ階の顔見知りが二人出てきて建物に入ることができた。絶望は30分で終わった。なお、これを機にタバコをやめようとは思っていない。