【ドイツ 演劇】MOTHERS - A SONG FOR WARTIME (『母親たち――戦争の時代のための歌』、コンセプト・演出:マルタ・グルツニカ)――2025年2月24日マクシム・ゴーリキー劇場 Maxim Gorki Theater
Konzept und Regie: Marta Górnicka(コンセプト・演出:マルタ・グルツニカ)
観劇日:2025年2月24日
初演日:2023年9月29日(Teatr Powszechny Warschau ポーランド、ワルシャワ)
※フランス初演: 2023 年 4 月 10 日(Maillon, Théâtre de la Ville de Strasbourg)
※ドイツ初演: 2023 年 4 月 11 日(マクシム・ゴーリキー劇場)
今年もまたゴーリキー劇場にきた。本作は橋本さんがイチオシしてくれた作品である。昨年は都合がつかなかったが、今回は月曜日に公演があってすべりこませることができた。平日の夜にバンバン公演やってるのは有難い。運よく最前列、カミテから二席目を確保できた。
開演時刻になっても劇場に入ることはできない。これはそういう演出らしく、時間になってから観客は舞台に入って客席に座るという趣向である。舞台には三角形に整列した出演者たちが、観客が座るまで動かずに待機している。客席の中央に演出家のマルタ・グルツニカがいて、コーラスや動きの指揮をとる。舞台は八百屋になっている。じつは学生の頃、八百屋舞台で似たような演出を俳優として経験したことがあって、これが結構たいへんである。けれども、終始乱れることなく、行為は遂行される。
出演者たちは、Überlebende / survivors 生き残ったもの、と紹介されている。現在ポーランドに住む、ウクライナやベラルーシ出身の女性たちには、様々なバックグラウンドが窺える。歌唱はウクライナの伝統に基づいたものらしい。衣装は決して着飾ったものではなく、日常的な動きやすい服装である。「その人がそこにいる」という印象だった。
言語は、ポーランド語、ウクライナ語、ポーランド語、ドイツ語、英語で、ドイツ語と英語はほぼ字幕。それ以外にも、字幕を使った演出が多数あって、英語・ドイツ語どちらも中途半端な自分にとっては観る姿勢を固めるのに少し時間がかかってしまった。
「どうしてあなたはここにいるの?」
「独りじゃないから」(nicht allein zu sein)
コーラス、独唱、モノローグで構成され、会話といえる場面はほとんどなかったが、この短いやりとりに深く感動した。去年のルームメイトはベラルーシ人で、今のクラスメイトにもベラルーシ人がいる。「SNSは何を使ってるの?」という話になり、「テレグラムを使ってるんだ! 安全だからね!」と言われた。日本では、テレグラムといえば「闇バイトの温床」のイメージなのだが、警察の介入すら弾く暗号化技術は、独裁政権下では限られた「自由の場」になる。陰と陽は、国が違えば簡単に逆転する。それでもここで、何かを創り、発表することがわずかでもポジティヴに働くのなら、まだ世界は最悪ではないと信じられる。人間の想像力というのは貧弱である。しかし、その貧弱な想像力をもってしか、何かを理解することははじめられない。深く心に刻まされた作品だった。なお、同作はベルリン、パリ、ワルシャワのほかに、スペイン、スイス、オーストリアなどヨーロッパをツアーしており、2023年7月19日に、アヴィニョン演劇祭ではReading of libretto (朗読)があった。
余談だが、ゴーリキー劇場のネオンが消えていた。電気代の節約のためなのだろうか。サイネージは点いていたが、フォルクスビューネに続いてやや不穏である。