ビギナーによるビギナーのためのベルリン観劇案内
ベルリン到着直後、とくに先導者がいない状態で観劇していて、とても苦労しました。後続のために簡単に書いておこうと思ったら、かなり長くなってしまいました。細かいところで結構文化的な違いが出るものです。よい観劇体験のための参考になれば幸いです。
2024年9月から2025年7月までのあいだ、ベルリンの劇場でたくさん観劇しました。長年にわたってレパートリー入りしている作品もあるので、よろしければ作品ごとの私のレビューもご参照ください。Nachtkritik というサイトが、初演直後にレビューを出しているので、作品名(演出家名)+Nachtkritik で検索かけてみるのも手です。初演には、Premiere とか Uraufführung との記載があり、最後のプログラム入りのときは、Letzten Mal などと書いてあります。初演日は作品ページで確認できますが、劇場によってはプログラムから外れると、作品ページごと見られなくなったりするので、あとで確認したい人はスクショ保存しておいてもいいかもしれません。
9月から7月
多くの劇場は19世紀からある古い建物なので冷房がなく、7月終わり頃から8月にかけてはヴァカンス、休業です。日本の夏休みに乗り込んでも何もないので、ご注意ください。むしろツアーで日本に来ていたりします。9月になってシーズンがスタートします。前月から半分ずつ来月の上演作が各劇場の公式サイトで発表され、予約できるようになります。人気作は即座に埋まることもありますが、日本ほどシビアではないと思います。シャウビューネにはアプリなどがあり、その他にも各劇場からのメルマガがあります。私は結局利用しませんでしたが、ものによっては会員だと先に予約できたりするらしいです。情報をいちはやくキャッチして予約しましょう。
フェスティバル
4月に、シャウビューネ劇場でFINDというフェスティバルがあります。そこでは、ドイツ国外の演劇が多数上演されます。FINDの時期は、ベルリンにいるのに英語やフランス語、オランダ語の演劇ばかりで、変な気持ちでした。しかし、この短い期間にいろんな国の演劇を一挙に観劇できる機会は貴重です。
マクシム・ゴーリキー劇場では、2025年4月末から5月までのあいだ、アルメニアを中心に置いたフェスティバルが行われていました(100 + 10 - Armenian Allegories)。シャウビューネ劇場は「西側」らしい雰囲気の一方で、ゴーリキーの目は東に向いているような印象があります。高校生レベルでもよいので、世界史を復習することをおすすめします。なお、2025年9月からの次の芸術監督チャグラ・イルク氏もそれまでの芸術監督シェルミン・ラングホフ氏もトルコ系です。
5月には、ベルリナー・フェストシュピーレで、Theatertreffen (テアタートレッフェン)というフェスティバルがあります。ドイツ国内の「今年最も注目すべき演出作10作」が上演されます。前年1年のあいだの演出作を批評家が選んだものです。私が観劇したケイティ・ミッチェル演出の『ベルナルダ・アルバの家』のようにベルリン外の劇場で製作された作品は、ベルリナー・フェストシュピーレで上演されますが、もしベルリンの劇場で製作されたものであれば、その劇場で上演されるようです。2025年のテアタートレッフェンでは、ゴーリキー劇場から1作、フォルクスビューネから1作選ばれており、いずれもそれぞれの劇場で上演されていました。
ウェブサイトから予約する
予約は各劇場のウェブサイトからできます。英語にも対応しています。座席表が出て、グレーではない部分の席をクリックすると、次に、学生・一般などの選択肢が出てきます。色はチケットレベルを表します。学生料金だとものすごく安いので、学生の方は学生で行きましょう。自分の学生証で問題がないか不安な方は、メールで問い合わせてみることをおすすめします。私が問い合わせたときは、どの劇場も当日中に返事をくれました。私の語学学校の学生証でも有効とのことでした。滅多にありませんが、入場時に提示を求められます。なお、すべての座席で学生料金が適用されるわけではありません。いい席だが、学生料金なしだった場合は、ご自身のお気持ちとお財布を天秤にかけましょう。
英語字幕
英語字幕が必要な方は、どの劇場でも後ろのほうにしたほうがいいです。作品にもよりますが、マクシム・ゴーリキー劇場はカミテ・シモテの端の上のほうに2か所、ドイツ座とベルリナー・アンサンブルは舞台の中央の真上にあることが多いです。英語字幕があるかどうかは、ウェブサイトに記載があり、同じ演目でも字幕があるときとないときがありますのでご注意ください。字幕があるとかないとか無関係な作品もあるというか、主に英語という演目もありますが、それはわりと作家をわかっていないと事前にはわからないと思います。
字幕そのものは普及していますが、ズレが結構目立つことがあります。アドリブのシーンではもちろん字幕は消えますし、俳優のセリフが英語になると、字幕はドイツ語に切り替わります。
あるとき、シャウビューネ劇場で開演前にスタッフが出てきて、「このへんの席、ドイツ語字幕は見えるけど、英語字幕は見えにくんやけど、席替えせえへん?」という声掛けがありました。これは、FINDでの出来事で、作品はフランスから来ているものでした。こういうこともあります。言うまでもないことですが、ドイツ語を少しでも勉強しているとかなりストレスが軽減されます。
決済とチケット
クレジットカード決済にも対応していますが、日本のクレジットカードだと、海外決済ということで弾かれることがあります。私は、Revolut や N26 のデビットカードを利用していましたが、ペイパルも対応していると思います。予約ができたらQRコードがメールに送られてきます。なぜかドイツ座はQRコードではなく、添付されたpdf ファイルのチケットです。紙ベースがいい、という人は自分で印刷するか、劇場で発行してもらうか、郵送というパターンがあります。手数料がかかるものもありますので、スマホで出せるように準備しておくのが最も簡単です。
当日券
当日、劇場に行くと、当日券が買えることがあります。カウンターに行って、これこれのチケットありますかと聞くと、行けそうな場合は「xx時から売り出す」と言われるので、並んで待ちましょう。むろん枚数に限りがあります。人気の演目だと、転売ヤーもうろついています。自己責任ですが、何としても観たいという場合は、「当日券手に入らなかったなあ」感を出していると声をかけられたりします。
当日
だいたい10分前開場です(作品によっては開演時刻になってから入場という演出もあります)。そして5分くらいは開演が押します。5分押しくらいはヨーロッパでは優秀なほうだと聞きます。最近のドイツの公共交通機関は信用できませんので、開演15分前に着くように動くのが最適だと思います。
海外なので、不安ということもあって、30分前くらいに来てしまうかもしれません。それでも、まだ開場していないので、カンティーネ(ドイツ語で食堂。劇場付きのカフェ)でコーヒーや飲み物を買って飲んでしまうかもしれませんが、トイレに行きたくなるのでおすすめできません。なんどか地獄を味わいました。2時間くらい早く来て、ゆっくり食事したりおしゃべりしたりしてから、観劇というのが優雅で最善です。カンティーネには、俳優、スタッフ、演出家もふつうに現れます。19時開演で、ああ16時出勤(劇場入り)なんだと思ったりしました。ものすごく長い演目だと、開演してから出勤ということもあるそうです。私は早めにきて、人々をいつも観察していました。
ジーっとベルが鳴って、開場して劇場に入ります(このベルは休憩の終わりとか、開演直前にも鳴ります)。入場口の前にスタッフがいて、予約後にメールで送られてくるQRコードをピッとしてもらいます。入口が複数あると、座席に応じて奥のほうですとか、右のほうですとか教えてもらえます。Reihe (ライエ)が横列、Platz (プラッツ)が席番号です。椅子に番号が書いてあります。わからなければ、スタッフに聞くと優しく教えてくれるでしょう。自分の席に、間違えて別の人が座っているということもよくありました。アレ?と思ったら気軽に声をかけましょう。もし、端の方の席だった場合は、真ん中の席が埋まるまで端っこに立って待っておくのもいいと思います。もちろん先に座っていても大丈夫です。Entschuldigen (サーセン)と言われたら、立つなどして道を開けて、Danke schön と言われるので、Bitte schön とか返したりします。向こうから先に Danke sehr と言ってくる猛者もおりました。開演時間になっても、自分の列の真ん中のほうの席が空いていたりすると、しれっとみんな移動して真ん中に寄ったりします。まあ、真ん中、空いてるよりは、ね。
日本と同様に、スマホは機内モードか電源OFFにしなければなりませんし、録画・録音は禁止です。しかし、ちょこちょこマナー違反している人が見受けられました。私の真横で、思いっきりレコーダーで録音しているオジサンもいました。必ずしもそのような状況が頻発しているわけではありませんが、今後何か対策がなされるかもしれません。言うまでもなく、他の人がしているからOKということはありません。開演直前の合図で、携帯の着信音が流れることがあります。ベルリナー・アンサンブルでは、着信音が流れたあと、「チッチッチッ」と指を振るというキザな演出が一度ありました。もちろん、始まり方は演出によるところなので、一定ではありません。
トイレ
ベルリンの劇場のトイレは、ベルリンなのにどの劇場も、とてもきれいでした。ただし、ジェンダー・フリートイレを採用している劇場もあります。ジェンダーフリートイレと言いながら、男性用トイレを誰でも使えるトイレにしているだけで、小便器コーナーの後ろを女性が往来したりすることがあります。また、日本のように「デザインの敗北」という現象が起こらないため、男性用・女性用・ジェンダーフリーのどれなのか一見するとわからなかったりします。近くの紳士淑女に聞くと教えてもらえるでしょう。私も、何回かドイツ人に「これって男性用なんやろか?」と聞かれました。男性は Herrn 女性は Damen です。ドイツ座のように、H や D だけ書いてあることもあります。ゴーリキーのトイレでは、ペーパータオルがほぼレタスみたいな色です。濡れると余計にレタスみたいに見えます。「誰かレタス捨てとるで!」とか叫ばないようにお気を付けください。
主な劇場(神田が行ったところ)
劇場ごとに、私の独断と偏見で強引に特徴をひとことで書きました。怒らないでね。ぜんぜんドイツ語がわからない状態で観劇してきましたが、それでも伝わる部分・わかる部分はたくさんありました。ベルリンに行くことがあれば、ご参照ください。偉い人は、間違いなどがあればこっそり神田にお伝えください。しれっと記事を修正します。
マクシム・ゴーリキー劇場 Maxim Gorki Theater
特徴:若い。すぐ脱ぐ。移民ものが多い。客いじり頻発するのでビギナーは最前列座ったらアカン。
※Studio Я(スタジオヤー)という若手作家のための小さな会場が少し離れたところにあります。知らずに予約して間違えないようにお気を付けください。
住所:Am Festungsgraben 2, 10117 Berlin
ドイツ座 Deutsches Theater Berlin
特徴:オールド・スクール。ドイツ語聞き取りやすい。安心して観れる。
※会場は三つあります。600席のDas Große Haus、230席のKammerspiele、さらに小規模のスタジオ、Boxです。入口から見て、右側に、Große Haus、左側に Kammerspiele と Box があります。
住所:Schumannstraße 13A, 10117 Berlin
HP:https://www.deutschestheater.de/
ベルリナー・アンサンブル Berliner Ensemble
特徴:コンスタンティヴな古典が多かった。2027年に今のシッフバウアーダム劇場から移転を余儀なくされるかも。劇場の前の公園にベルトルトオジサンの銅像ある。
※会場はGroßes Haus とNeuen Haus とあります。Großes Hausはすぐわかると思いますが、Neuen Haus は少し奥まったところにあります。
住所:Bertolt-Brecht-Platz 1, 10117 Berlin
HP:https://www.berliner-ensemble.de/
シャウビューネ劇場 Schaubühne am Lehniner Platz
特徴:今のところオースターマイアーさんのレパートリーめちゃやってる。FINDというフェスティバルで世界各国のドラマ演劇が見れる。
住所:Kurfürstendamm 153, 10709 Berlin
HP:https://www.schaubuehne.de/de/start/index.html
ベルリナー・フェストシュピーレ Berliner Festspiele
特徴:チケ代ちょい高い。前年ドイツでおもろかったのん10作が観られるテアター・トレッフェンやってる。
住所:Schaperstraße 24, 10719 Berlin
HP:https://www.berlinerfestspiele.de/
フォルクスビューネ Volksbühne am Rosa-Luxemburg-Platz
特徴:ややパフォーミング・アーツより。ホルツィンガーやばい。
住所:Linienstraße 227, 10178 Berlin