【戯曲を読む】No.2 加藤道夫『なよたけ』 発表:1946年/初演:1951(55)年

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あらすじ

平安時代。石ノ上文麻呂は、左遷され東国に赴く父綾麻呂との別れを惜しんでいた。父を追いやったのは大伴ノ御行という大納言であった。文麻呂は敵討のため、田舎娘に夢中だという大納言の噂をききつけ、その田舎娘なよたけを奪おうと清原を焚き付け画策する(第一幕、第二幕)。しかし文麻呂のほうが、不思議な力を持つなよたけに恋をしてしまう。葵祭の日。大納言は実はなよたけを狂人として見世物にしようとしており、文麻呂もろとも恥をかかせようとする。ところがなよたけが泣くと天気が荒れ、なよたけは消えてしまう(第三幕)。文麻呂は竹取翁からなよたけの出生の秘密を聞く。すると声が聞こえ、文麻呂はなよたけを追う。憔悴したなよたけと愛を誓うが、彼女は死んでしまう(第四幕)。綾麻呂は、東国で不尽山を仰ぎ、気が触れてしまったという文麻呂の状況を嘆いていた。しかしそこに文麻呂が現れる。文麻呂は、父と語らい、そしてある物語を書いたという。その物語こそ『竹取物語』であった(第五幕)。

加藤道夫(1918~1953)

「なよたけ」は初の長編戯曲。慶應義塾大学英文学科出身。本作の脱稿は1944年。陸軍通訳間として南方へ出征。戦地でマラリアと栄養失調により死線を彷徨う。1950年、岸田國士「文学立体化運動」のために主宰した「雲の会」に参加。同会には三島由紀夫、木下順二なども参加。1953年、縊死自殺。

ノート

とても読むのがしんどく、くじけそうになったが、最後まで読んでよかったな、という気持ちになった。井上ひさしを読んでいるのかと思うような気持ちにもなったが、もちろん、まったく同じでもない。しかし、どうしてそういう感覚になったのかというと、

井上 ・・・・・・何を狙っているかと言いますと、学者や研究者の方々が書いていらっしゃること、それらあらゆる資料、そういったものをすべてあたっても、ここだけはわからないというところを探し出すのが真の目的です。

井上ひさし・平田オリザ『話し言葉の日本語』小学館、2003年、195頁。

たぶん、ここで井上が語る「真の目的」とト書き冒頭の、

『竹取物語』はこうして生れた。
世の中のどんなに偉い学者達が、どんなに精密な考証をたてにこの説を一笑に付そうとしても、作者はただもう執拗しつように主張し続けるだけなのです。

加藤道夫『なよたけ』青空文庫

というところが重なっていたからだと思われる。『竹取物語』を、ある意味「反体制的な物語」と考える向きもあるらしい。天皇ですら「目的を果たせない」からである。この作者不詳の「現存する日本最古の物語」を、この長大な一つの戯曲として成立させているこの戯曲は、ドイツで言うところの『ファウスト』に匹敵するものがある。わざわざここで取り上げてみたのは、それだけの戯曲を書いた劇作家が、どういうわけか「雲の会」でともに活躍した三島由紀夫や岸田國士と比べてあまり取り上げられることがないように感じられるからである。もちろん、21世紀でも上演歴はあるようだが、私のように不勉強な田舎者にまでは届いてきていない。長すぎるという失礼な理由で、戯曲研究会でも取り上げていないのだが、パブリック・ドメイン化されているので、人が集まるのであれば、読む機会を持ちたいと思う。