【ドイツ 演劇】Der Schiff der träume [fährt einfach weiter](フェリーニ原作『そして船は行く』、アンナ・ベルクマン演出) ―― 2024年10月19日 ドイツ座 Deutsches Theater
原作:フェデリコ・フェリーニ
演出:Anna Bergman
テキスト:Thomas Perle
初演日:2024年9月26日
Deutsches Theater にまた来た。この劇場の定訳は、「ドイツ座」のようで、日本語でグーグルマップを表示してもそのように表示される。いつもまったく不勉強というか、ヒトラー以降のドイツやドイツ演劇についてあまりわかっていない。『わが友ヒットラー』の上演に際しては、当時のナチの状況をそれなりに調べたけれども、そういう局所的な情報以外には、よくわかっていない。ほかにも、卒論で一言だけインダストリー4.0 なるものに触れたが、これその後どのような展開になったのかも追っていない。最大規模の会場は今回がはじめてである。2階席やステンドグラスが歴史と伝統を感じさせる。タイトルは、Der Schiff der träume [fährt einfach weiter]で、夢の船[は、とにかく進むだけ]といったところだろう(フェデリコ・フェリーニの原作は、イタリア語だと E la nave va 英語だと、And the Ship Sails On(「そして船は行く」)。
はじめに大きな壁が舞台上にあって、俳優が登場して鉄扉(音か、その部分だけだと思う)をガタンと閉める。その後扉壁がなくなって、舞台が見えてくる。今まで、「幕が上がる」と言われてもピンとこなかったのは、幕のある舞台をほとんど観たことがなかったからである。見えてきた舞台は回転舞台で、その下には奈落があり、客席からは見えないが手持ちのカメラが入り、中の様子が実況される。はじめは歌ったり、奇抜で滑稽な人々たちが楽しげに過ごしているのだが、長い後悔のなかで、ストレスが溜まっていくのと呼応して演出も陰鬱なものになっていく。「幕が上がる」とは別に、「船での生活」というのも、個人的によくわからない。ドイツ人が海へ出たのはいつ頃なのだろうか。オスマン=トルコが怖くて、海へ出ざるを得なかった大航海時代はポルトガルやスペインが中心で、その後レパントの海戦(1571年)でトルコを破ったスペイン帝国だが、そのスペインの無敵艦隊を、アルマダの海戦(1588年)でイギリス海軍が情報戦を制して破り、覇権国家の礎を築いたというのは世界史で楽しい部分なのだが、まだこのときは「ドイツ」ですらない。ルターが聖書をドイツ語訳して、教皇にドヤってる時期くらいだろうか。そもそも、この作品はイタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニを元にして作られたとのことなので、そのあたりは関係がないのかもしれない。また、日本人とて徳川時代の精神をリアルに維持できているわけではない。
結局ドイツは「持たざる国」としてヨーロッパで不満を溜めていくことになる。海の中のイメージの演出が、映像と回転舞台をダイナミックに用いてはいたのだが、少し物足りなかったような印象がある。ただ歌はとても見事で、それだけで十分観ていられた。今日はオペラを観に来たわけではなかったはずだが…
フェリーニ『道』などを観ても、感じていたことだが、ヨーロッパの作品の基礎の一つに、サーカスのイメージがあるように思われる。日本であれば、歌舞伎や浄瑠璃がそれにあたる大衆向きのエンターテイメントだったのかもしれないが、われわれの歴史と、彼らの歴史に、どういう違いがあって、現在の「演劇の扱い」の差が生まれたのだろうか。まだ検討できていない、あるいは見えていない変数は無数にあるだろうけれども、数値化できないような対象だからこそ、多様な視点から考察していきたい。
当たり前のことなのかもしれないが、照明変化を使った基本的な舞台演出を思い出すきっかけにもなった。最後の場面になったとき、それまで映像演出を含めて、色味色味色味という印象だった舞台が、白い無味乾燥な明かりを与えられることで、大きく場面が変化したような感触になる。またマイクなしでセリフを言う。こうした演出が効果的だったのかはわからないのだが、わかりやすい転換として勉強になった。
ラスト演出が尖ってた。「どこが終わりがよくわからなくて、どこで拍手したらいいのかよくわからん」と観客が置き去りにされていた。最後の歌があって、暗転して、暗転のなかでもまだ歌が聞こえて、それが止んだのだが、もう一度明転して、動物の被り物を被った俳優が、「人間っていうのがいたね、そういえば」的なセリフを述べる。終わる前にすでに席を立っている観客もいたが、それも込みで楽しんでいるように見えた。