劇団辞めてドイツ行く(26)ケバブを食べてもいい理由を探す――2024年10月11日

ケバブを食べてもいい理由を探す

 語学学校だけにいると、それなりにドイツ語ができるようになったような気がしてくるが、演劇を観たり、何かを買うときなどにやっぱり全然駄目だと思う、というのを繰り返している。初日よりはだいぶマシになってきたけれども、自分が納得できるようなレベルにはなかなか到達できない。具体的な目標を持たずに、とりあえず「ここではないどこか」に行くという、自分が持つ「ゼロ年代的浅薄さ」をあえて受け入れつつ、そこそこのお金と時間をかけて準備した。ちょうどいい塩梅に節制できているので、11月末までに困窮するということはなさそうである。

 今、B2のクラスを受けているが、せっかくよい先生にも当たったことだし、ここまできたらC1まで到達したい。しかし、数年の独学に付け焼き刃の3ヶ月ではそこへは到底たどり着けないのは明らかである。せめて半年は勉強の時間がほしいところである。

 そこで一つ、新しく考えていることがある。11月25日にいったん帰国し、その後根無し草の状態でお金を貯めつつ、「教育一般貸付」などの制度を利用して、ワーホリビザが有効なうちに再入国するという計画である。4月までに戻ることができれば、テアタートレッフェンにも間に合うし、語学学校も今入っているところなら金銭的なの見込みもつけやすく、保険も2025年8月まで有効なのでやや安く済むうえ、仲介手数料や教科書代も浮く。「教育一般貸付」は、有り体にいえば金銭的に教育を受けたくても受けられない人(主としてその親)が、安い利子で国に借金することである。とりあえずインターネットで情報を確認し、書類を出すのに必要なものやそもそも自分が対象になるのかなどを問い合わせねばならない。また、語学学校も部屋に空きがあるのは限らない。今は三人部屋に一人で1ヶ月半滞在できているが、そのときまた同じようになるとは言いきれない。贅沢を言って独り部屋にするなら、20 万くらい金額があがり、利点が相殺される。空き状況を確認する必要がある。先生も、他の生徒の様子を見ると、かなり強硬に希望すれば選べるようである(強硬に、である)。

 昔、あるギャラリーの人に、「100万までは借金じゃない」と言われた。また100万貯まるまで1年働くよりも、ここでブーストをかけてしまったほうが今後の自分のためになるのではないか、と思う。なんとかなるかな。そうするなら、「半年以内にもう1回ドイツ行く」企画始動になる。果たして金を工面することはできるのか。もうプロミスはしたくない。

 ただ、C1を中期的な目標にするとして、その後のこともそろそろ考えねばならない。うまく行ってC1になったとしてもドイツの大学に入ると、そこから学士に4年、さらに進むなら2年と道のりが長すぎる。考えてみれば当然のこと、第二言語はフランス語、学士は社会科学系の政策学部のもので、自分の経歴はドイツとも演劇ともまったく関係がない。さらに言えばこれまで何度も試みたが海外戯曲の演出をすることもできていない。シェイクスピアも、チェーホフもやろうとしたがいろいろあってできなかった。アイナー・シュレーフ作の『ニーチェ三部作』も、上演のために訳者の方に連絡を取るところまで進んだものの、経済的に叶わなかった。また、大学の成績もGPAで言えば、留年したことからも明らかなように頗る悪い。自分が、ドイツの大学へ行くには不利な点が多い。社会科学系の学部を目指すほうがまだ可能性があるだろう。卒論は「ニッチ市場における製品開発の特性について」とかいう、どう読み込んでも演劇に関連性があるとは思えないような内容である。個人的には、ものを真剣に調べて考えて文章にするという体験は、今に活きる価値あるものだったけれども、これを見て演劇のキャリアだと主張するにはめちゃくちゃ無理がある。

 いくつか有り難い出会いがあったり話を聞いたりして、まぁ今の自分にいちばん大事でのし上がるのに手っ取り早いのは、日本でよい作品をちゃんとつくることだなと、考える前にわかるだろ的な結論に達してしまった。劇作家も演出家も、独りでは存在していないのと同然である。関西であれば、まだなんとか作品を立ち上げることができる。だからといってなんの意味もなかったというわけではない。普通にここまで生活を楽しんでいるし、観劇も多くできそうなうえ、いろいろなことを真剣に考える時間も持てた。また、とにかくケバブを食べたい。これはラーメン・オルタナティブであり、ラーメンがなくてもケバブがあれば生きていけるので、世界のどこでもたぶん大丈夫だということがわかった。ケバブは、確かにベルリンだと1000円以上なのでおそらく日本より高いが他の食事に比べればかなり安価である。またケバブには肉が含まれるばかりではなく、野菜も入っていて健康によく、それでいて小さなケバブでも十分お腹が膨れるので財布にも優しい。昨日スープを作り、冷蔵庫の食品をほぼ使い切ったために、また、今夜の4時間の観劇の間にお腹が空かないようにするために、ケバブを食べたほうがいい。食品の買い出しは明日の土曜日にすればいいので、今からケバブを食べてもかまわない。そういえば冷蔵庫には卵が五つぬらいあるが、まだ日持ちするのでケバブを食べても問題がない。今日出た課題はもうほぼ終わり、残りは自主勉強をしていても土日で十分片付けられる量なので、今日はもうケバブを食べてもよいものとする。