劇団辞めてドイツ行く(12)腰が痛い、肩も痛い、風呂入りたい、金がない――2024年9月12日
腰が痛い、肩も痛い、風呂入りたい、金がない
身体に不調が見え始めた。来たばかりの頃は、別種のストレスで気になっていなかった部分が気になり始める。かなり長い時間机に向かっているので、腰が痛い。肩も相変わらず、部分的に固まることで、動きが悪くなる。身体の調子が落ちると、勉強もなかなか身に入らなくなる。悪循環である。とりあえず運動しなければならない。
学校付きの寮にはシャワールームがある。知っての通りかと思うが、毎日湯舟にゆっくりつかる文化は多数派ではなく、浴槽はそもそも設置されていない。サウナはあるそうなので、いけそうなら行ってみたいが、ちょっと金銭的に危うくなってきた。
8月分の給与の振り込み(30万くらい)があるので、無駄遣いを抑えれば、飛行機を抑えている11月25日までは生き延びることができる。ドイツ語が思うように伸びず、働くこともままならないというのなら、ここでゲームオーバーである。文法はめちゃくちゃだが、少しずつ話せるようにはなってきた。先生は、映画製作の仕事をしていたことがあるらしく、映画の話をした。勝新太郎と北野武の座頭市とか、ヴィム・ヴェンダースとか、ベルリン天使の詩(Der Himmel über Berlin)の話をして、とりあえず黒澤明の『生きる』と、濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』をおすすめした。
どちらにしても、現在のビザでは2025年8月中旬までしか滞在できないし、このビザでは大した仕事はできない。なんとか劇場関係の仕事ができれば(マクシム・ゴーリキー劇場の受付とかできないかな)最高なのだが、「劇場」という文化圏がおそらく圧倒的にディープなところにあるものなので、そういう受け入れとかは橋本さんのようなある程度オフィシャルな形でしか潜り込めないのかもしれない。それでも11月23日には学校を放り出されるので、とにかく三か月以内、いろいろ探す時間を考慮すれば2か月半以内には生きられるだけの語学力を身につける必要がある。
これまで、語学力を一方的に「測られる」という立場にはなかった。「測る」側である。言葉を扱う劇作家なのに、自分はなんて配慮がなかったんだろうと、ホテルで働いていた頃の日々を深く反省している。海外から来ているスタッフと話すときは雑談であっても、なるべくはっきりと発語し、書くときは大きめにきれいな字で、主語と述語を明示しつつ、英語に翻訳しやすいような客体化された言葉を心掛けていたのだが、そんなものではまったく足りない。そういえば、ネパールから来ていた一人のスタッフは働きながらも日々努力していた。いつもいろいろ質問するので、自分の持つリソースの限りを尽くしたつもりだったが、もっといろいろできることもあったんじゃないかと思う。Ein einfacher satz!(簡単な文で!)と今日の授業でも言われた。「トルコ語、パシュトー語(アフガニスタン)、中国語、日本語で、あなたたちが考えていることを完全にドイツ語にするのではなく、まずは簡単な文章を作って、そこからはじめましょう」。東進の英作文の授業を思い出す。かなり印象的な授業で今でも役に立つ。宮崎尊先生である。ほとんど同じことを、今ベルリンでドイツ語で聞いている。英語ではthe shoter, the better だったか。もう一度、頭を軽くしなければならない。
この前、パリに来ませんかという誘いが来た。タニノクロウ氏のフランスでの作品があるから観に来ないかという連絡である。全編フランス語であるが、こう見えて、フランス語検定3級持ってて、実際今のドイツ語とトントンであるので(この10日間でドイツ語がだいぶリード)、作品の理解はそこまで問題ではないと思っている。そして、今人生でもっともパリに近く、行きやすい状況にある。しかし、ベルリン-パリ間の移動は飛行機でなければ半日以上かかる。つまり1泊2日の小旅行ということになる。スマホもないのになかなか冒険的である。ただ飛行機はリスクが大きい。というか、正直もう飛行機には乗りたくない。実は関空からの道中に紛失したのは、スマホだけではなく、イヤホンの片耳と、一冊だけ持ってきた文庫本を無くしてしまった。帰りもまた乗るのが非常に億劫である。というわけで、電車を使いたいのだが、それ用のアプリがあるというのを教えてもらったのでいろいろ調べてみようと思う。
夜中にパリ着はなんかかなり怖い。ベルリンは思っていたよりも治安がよく、夜タバコを吸いに外に出てもあまり怖くない。目を合わせたらダメそうな人もいるが、それは日本でも同じである。だから昼に着くようにしようとすると、夜に出発することになる。また身体バキバキになるのも避けたい。収まりのいい手段を検討しなければ。これはチャンスである、身体を動かさなければ何も得られないぞ。
ドイツ語
Ich empfahl meiner Lehrerin „Drive My Car" und „Einmal wirklich leben." Auch sprach ich über die japanischen Filme.
(私は私の先生(女性)に、『ドライブマイカー』と『生きる』をおすすめしました。また、私は日本の映画についても話ました)。
empfahl は過去形。口語では、habe を第二位において、文末にempfohlenを置くことが多いらしい。empfehlen=recommendは、めっちゃホテルで使った。かなりの割合で、京都から嵐山や清水寺までの道を聞かれるので、
I recommend you to ride the taxi. But It's expensive. If you woud like you to save your money, I recommend you to take trains or bus. But it's complex. とかの定型文を用意していた。英語は日本語に比して語順にまったく自由がない。フランス語も確かそうである。
ドイツ語は、若干語順に自由がある。主語が動詞の直後に来るということが非常によくあるのである。これが、谷崎潤一郎の戦前に『文章読本』での「日本人にとっては英語やフランス語よりもドイツ語がやりやすい」という発言の根拠なのだが、谷崎はどちらかといえばフランス語畑なので、わりとないものねだり的な部分もあると思う。語順が固定されている方が文章構造を読み解くときに混乱しにくいという考え方もあるからである。枠構造とか、そういうものを意識しながら話すのが難しい。文法とか気にしていたら何も話せないよと言われてしまうかもしれないが、せっかくやるなら本格的に、というか、「B1だから正しい文法を意識してね」と先生に言われている。
もう11日も経ったのかよ。